全日本空輸(退職強要)事件(第一審)(退職強要・不法行為)

全日本空輸(退職強要)事件(第一審)・大阪地裁平成11年10月18日判決
「原告に対して被告が行った退職勧奨は、その頻度、各面談の時間の長さ、原告に対する言動が、社会通念上許容しうる範囲を超えており、単なる退職勧奨とはいえず、違法な退職強要として不法行為となる。」

[事案の概要]
XはYのスチュワーデスとして勤務していたが、労災事故によって約3年3ヶ月休業した後復職した。Xが労災事故の症状が固定した以後Yから退職を強要され、さらに、理由もなく解雇されたとして、従業員としての地位確認及び右解雇以降将来に渡る賃金の支払を求め、かつYによる解雇及び退職強要がXの人格権を侵害する不法行為に該当するとして、これに基づく損害賠償を求めた。

[判決の要旨]
〈本件解雇の効力〉労働者がその職種や業務内容を限定して雇用された者であるときは、労働者がその業務を遂行できなくなり、現実に現実に配置可能な部所が存在しないならば、労働者は債務の本旨に従った履行の提供ができないわけであるから、これが解雇事由となることはやむを得ないところである。しかしながら、労働者が休業又は休職の直後においては、従前の業務に復職させることができないにしても、労働者に基本的な労働能力に低下がなく、復帰不能な事情が休職中の機械設備の変化等によって具体的な業務を担当する知識に欠けるというような、休業又は休職にともなう一時的なもので、短期間に従前の業務に復帰可能な状態になり得る場合には、労働者が債務の本旨に従った履行の提供ができないということはできず、右就業規則が規定する解雇事由もかかる趣旨のものと解すべきである。むろん使用者は、復職後の労働者に賃金を支払う以上、これに対応する労働の提供を要求できるものであるが、直ちに従前業務に復帰ができない場合でも、比較的短期間で復帰することが可能である場合には、休業又は復職に至る事情、使用者の規模、業種、労働者の配置等の事情から見て、短期間の復帰準備期間を提供したり、教育的措置をとるなどが信義則上求められるというべきで、このような信義則上の手段をとらずに、解雇することはできないというべきである。本件において、Xには就業規則の解雇事由である「労働能力の著しく低下したとき」に該当するような著しい労働能力の低下は認められないし、また、就業規則が規定する「解雇事由に準じる程度のやむを得ない理由があるとき」に該当する事由もこれを認めることはできない。以上によれば、本件解雇は就業規則に規定する解雇事由に該当しないにもかかわらずなされたものであって、合理的な理由がなく、解雇権の濫用として無効というべきである。
〈不法行為〉YのA、B、C、D、EといったXの上司にあたる者たちが、平成7年5月22日以降、9月ころまで、約4カ月間にわたり、Xとその復職について、30数回もの「面談」「話し合い」を行い、その中には約8時間もの長時間にわたるものもあったこと、右「面談」において、Aらは、Xに対し、「CAとしての能力がない」「別の道があるだろう」とか、「寄生虫」「他のCAの迷惑」とか述べ、Xがほとんど反応しなかったことから、大声を出したり、机をたたいたりした。またこの一連の面談なかには、Xが断っているにもかかわらず、Xの居住する寮にまで赴き行ったものが何回かあった。またXの兄や島根県に居住するXの家族にも直接会って、Xが退職するように説得をしてくれとも述べていた。かかるXに対するYの対応をみるに、その頻度、各面談の時間の長さ、Xに対する言動は、社会通念上許容しうる範囲を超えており、単なる退職勧奨とはいえず、違法な退職強要として不法行為となると言わざるを得ない。